ヨガ×健康経営
2025.07.01

5分でわかる!プレゼンティーイズムが会社に与える隠れたコスト 〜人事担当者のための簡単診断法〜

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プレゼンティーイズム(Presenteeism)とは、従業員が体調不良やメンタル不調などを抱えながら出勤し、十分なパフォーマンスを発揮できていない状態を指します。このコラムでは、人事担当者が直面するプレゼンティーイズムの隠れたコストと、その影響について記載します。また、簡単に実施できる診断法や改善策を紹介し、企業が現状を把握し適切な対策を講じる手助けをします。さらに、プレゼンティーイズムが重要視されている背景を、最新のデータや具体例を交えて説明します。

プレゼンティーイズムとは?その定義と重要性

プレゼンティーイズムとは?その定義と重要性

プレゼンティーイズムの基本的な意味

プレゼンティーイズムとは、従業員が心身の不調にもかかわらず出勤し続けることで、生産性が低下する状態を指します。この問題は、企業にとって見過ごされがちな隠れたコストでもあります。従業員の健康状態は、生産性や業績に密接に関わっており、プレゼンティーイズムによって企業全体に悪影響が及ぶ可能性があります。

心身の不調が生産性に与える影響

心身の不調集中力の低下作業効率の低下を招き、業務に支障をきたします。例えば、片頭痛や眼精疲労などの身体的不調は長時間のデスクワークを困難にし、ストレスやうつ病といったメンタルヘルスの問題は判断力や創造性を損ないます。
こうした不調は、欠勤や遅刻だけでなく、長期的なパフォーマンスの低下をもたらし、企業全体の生産性に影響します。ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社の2018年の調査結果よれば、年収400万円の従業員をモデルに、健康状態別にプレゼンティーイズムによる損失額を以下のように推定しています。

・健康な人:年間約60万円

・高ストレス者:年間約109万円

・超高ストレス者:年間約139万

多くの従業員を抱える企業では年間損失が数億円に及ぶこともあります。

参照:ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社の調査結果

アブセンティーイズムとの違い

プレゼンティーイズムは、出勤していても不調のために十分な働きができない状態を指し、アブセンティーイズムは病気や私用事で実際に仕事を休む状態を指します。これらが企業に与える影響は異なり、プレゼンティーイズムは生産性の低下を、アブセンティーイズムは業務の停滞や人材コストを引き起こします。

プレゼンティーイズムが企業における課題となる理由

プレゼンティーイズムが大きな課題となる理由は、生産性の低下が業務効率に直接影響を与えるためです。心身の不調を抱えたまま出勤することで、集中力が低下し業務の質が損なわれます。
また、プレゼンティーイズムは長期的な健康リスクをはらみ、従業員のモチベーション低下職場環境の悪化を招き、企業のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことがあります。そのため、プレゼンティーイズムへの対策は企業経営において非常に重要な課題となっています。

プレゼンティーイズムの主な原因

身体的要因:片頭痛、関節炎、腰痛など

身体的要因には片頭痛や関節炎、腰痛があります。これらの症状が生産性を低下させ、仕事の効率を悪化させます。例えば、片頭痛があると集中が続かず、関節炎は長時間の作業を困難にします。腰痛は座っているだけで疲れやすく、生産性を低下させます。
これらの身体的不調により年間数百万円の損失が発生するケースもあります。なので、企業はこれらの問題に対応する柔軟な勤務環境や職場改善策の導入が必要です。

メンタルヘルス:ストレス、うつ病、PMS

メンタルヘルスの問題もプレゼンティーイズムの大きな要因です。ストレスやうつ病は集中力や意欲を低下させます。PMS(月経前症候群)は特に女性従業員に影響を与え、感情や体調に問題が出ることが多いです。対策として企業ではストレスマネジメントプログラムの導入をし、従業員がストレスを管理できるようにすることもあります。

生活習慣の乱れと健康リスク

生活習慣の乱れもプレゼンティーイズムの主要な原因です。食生活の偏り、運動不足、睡眠不足は健康に影響を与えます。具体的には、バランスの取れない食事や運動不足が様々な健康リスクを引き起こし、結果として生産性が低下することがあります。
生活習慣を改善することで、プレゼンティーイズムの軽減が期待できます。適切な食事、定期的な運動、質の高い睡眠を心がけるサポートが重要です。こうした取り組みで企業全体のパフォーマンスが向上し、医療費削減にも繋がります。

プレゼンティーイズムが企業に与える影響

プレゼンティーイズムが企業に与える影響

「見えない損失」はどれだけ発生しているのか?

先述しましたように、ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社の2018年の調査結果よれば、年収400万円の従業員をモデルに、健康状態別にプレゼンティーイズムによる損失額を以下のように推定しています。

・健康な人:年間約60万円

・高ストレス者:年間約109万円

・超高ストレス者:年間約139万円

多くの従業員を抱える企業では年間損失が数億円に及ぶこともあります。
従業員数が1,000名の企業では年間約5億6,000万円の損失があると試算されています。

参照:ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社の調査結果

医療費を超える生産性損失の現状

プレゼンティーイズムによる生産性損失は、企業にとって見過ごせない重大な経済的課題です。
たとえば、従業員が風邪や頭痛、軽度のうつ症状などを抱えながら出勤し、業務効率が低下した場合、その影響は本人だけでなく、チーム全体の生産性やミスの増加、顧客対応の質の低下など、波及的な損失を引き起こします。これらは帳簿上には現れにくいものの、企業の業績やブランド価値にじわじわと影響を及ぼします。
さらに、プレゼンティーイズムは慢性的な健康問題やストレスのサインであることも多く、放置すれば将来的に長期休職や離職につながるリスクも高まります。つまり、目に見える医療費よりも、目に見えない「働けていない時間」のコストの方が、企業にとっては深刻なダメージとなるのです。

中リスク群・高リスク群の従業員の影響

たとえば、慢性的な疲労感や軽度のメンタル不調、睡眠の質の低下などが見られる従業員は、中度のプレゼンティーイズム状態にあるといえます。さらに、業務に大きな支障をきたすほどの強いストレスや慢性疾患を抱えている従業員は、高度のプレゼンティーイズム状態にあると考えられます。
中リスク群・高リスク群に分類される従業員は、企業の生産性や組織の健全性に対して見えにくいが深刻な影響を及ぼします。これらの従業員は、健康診断やストレスチェックの結果において、すぐに医療的介入が必要な状態ではないものの、慢性的な体調不良や心理的ストレスを抱えていることが多く、日常業務における集中力や判断力の低下が見られます。
また、中リスク群・高リスク群の従業員は、将来的に高い確率で長期休職や離職に至る可能性があるため、企業にとっては早期の介入と支援が極めて重要です。具体的には、定期的なフォローアップ面談、産業医や保健師との連携、柔軟な勤務制度の導入、メンタルヘルス研修の実施など、多面的なサポート体制の構築が求められます。

さらに、プレゼンティーイズムが慢性化すると、やがてはアブセンティーイズム(欠勤)や長期休職へとつながり、企業が負担する医療費や休職中の給与補填、復職支援などのコストも増大します。これらはすべて、企業の財務健全性や経営の持続可能性に対して無視できない影響を与えるのです。
したがって、健康関連コストを抑制するためには、プレゼンティーイズムの早期発見と予防的アプローチが不可欠です。従業員の健康状態を定期的に把握し、リスクの高い層に対して適切な支援を行うことで、将来的なコストの増加を未然に防ぐことが可能になります。

プレゼンティーイズムの測定方法と診断法

プレゼンティーイズムの測定方法と診断法

測定方法の概要

WHO-HPQ:国際的に認知された指標

プレゼンティーイズムを測定するために、国際的にWHO-HPQが利用されています。0~10段階のから該当のものを選択するタイプです。従業員の健康状態とパフォーマンスを評価し、企業が生産性低下の原因を理解するのに役立ちます。数値化された結果は効果的な対策を講じることを可能にします。

東大1項目版:簡易診断ツール

東大1項目版はプレゼンティーイズムをシンプルに測定するツールです。自分のパフォーマンスを%で表記するタイプで、短時間で健康状態を把握でき、迅速な対策が可能です。導入が簡単で、従業員の健康を包括的に管理できます。

WLQ、WFun、QQmethod:その他の測定方法

その他の測定方法にはWLQ、WFun、QQmethodがあります。それぞれ異なる特徴を持ち、企業のニーズに合ったツールを選ぶことができます。

【WLQ】
特徴:従業員の作業制限を評価。
利点:詳細な評価が可能。
欠点:複雑な質問が含まれる。

【WFun】
特徴:従業員の機能障害を測定。
利点:具体的な支援策の立案に有用。
欠点:導入コストが高い。

【QQmethod】
特徴: 健康状態と仕事のパフォーマンスを測定。
利点: 回答が簡単で、短時間で実施可能。
欠点: 主観的な評価なので、結果にばらつきが出やすい。

診断の実践方法

① ストレスチェックの活用
プレゼンティーイズムの早期発見にはストレスチェックが効果的です。従業員の健康状態を把握し、改善策を講じるために活用します。

② 健康診断データの分析
従業員の健康状態を確認するため健康診断データの分析も重要です。リスクを特定し、適切な対策を講じることができます。

③ 健康経営オフィスによる支援
健康経営オフィスが中心となって、従業員の健康をサポートする施策を実施しています。これにより、生産性向上につながります。

プレゼンティーイズム改善のための対策

プレゼンティーイズム改善のための対策

健康経営の推進

健康課題への取り組み:運動・食生活改善

運動プログラムや健康的な食事提供は、従業員の健康課題に対する取り組みとして有効です。こうした取り組みでプレゼンティーイズムの予防や軽減が図れます。

社内フィットネスプログラムの導入:従業員が運動できる環境を整備。

健康的な食事の提供:栄養バランスの取れたメニューを提供。

健康相談しやすい環境づくり

従業員が体調不良やメンタルの不調を感じたときに、気軽に相談できる環境を整えることは、プレゼンティーイズムの予防・改善に直結します。たとえば、産業医や保健師との定期的な面談機会の提供、匿名で相談できるチャット窓口の設置、上司や同僚とのオープンなコミュニケーション文化の醸成などが挙げられます。
「相談しても評価に影響しない」「話を聞いてもらえる」という心理的安全性が確保されていれば、従業員は早い段階で不調を共有しやすくなり、結果として重症化や長期離脱を防ぐことができます。

1on1ミーティングの活用

1on1ミーティングは、上司と部下が定期的に対話する場として、健康状態やストレスの兆候を早期にキャッチする有効な手段です。業務の進捗確認だけでなく、「最近よく眠れていますか?」「仕事の負担感はどうですか?」といったさりげない健康への問いかけを取り入れることで、従業員の変化に気づきやすくなります。
また、1on1を通じて信頼関係が築かれることで、従業員は悩みや不安を打ち明けやすくなり、メンタルヘルス不調の予防や早期対応にもつながります。形式的な面談ではなく、継続的で双方向のコミュニケーションを意識することが、健康経営の実効性を高めるポイントです。

効果的な従業員支援策

中リスク群・高リスク群の改善方法

中リスク群・高リスク群の従業員に対しては、画一的な対応ではなく、個別の状況に応じた支援プランの策定が重要です。たとえば、慢性的な体調不良やメンタル不調を抱える従業員には、産業医や保健師による定期的なフォローアップ、職場復帰支援プログラム(リワーク)、カウンセリングの提供などが効果的です。
また、業務内容の一部調整や負荷軽減、職場内での役割変更など、柔軟な対応を組み合わせることで、無理なく働き続けられる環境を整えることができます。これにより、プレゼンティーイズムの改善だけでなく、離職防止や職場定着にもつながります。

就労支援と柔軟な勤務環境の提供

健康課題を抱える従業員が、自分のペースで働ける環境を整えることは、プレゼンティーイズム対策として非常に有効です。たとえば、リモートワークの導入フレックスタイム制度の活用により、通勤や勤務時間の負担を軽減し、体調に合わせた働き方が可能になります。
また、短時間勤務制度段階的な復職支援など、就労継続を支える制度を整備することで、従業員は安心して働き続けることができます。これらの取り組みは、企業の柔軟性を示すと同時に、従業員のエンゲージメント向上にも寄与します。

ストレス管理とメンタルヘルスケアの強化

プレゼンティーイズムの背景には、ストレスやメンタル不調が潜んでいることが多く、これらへの対策は欠かせません。具体的には、ストレスチェックの定期実施と結果の活用、メンタルヘルス研修の実施、セルフケア支援ツールの導入などが挙げられます。
また、管理職に対してラインケア研修を行い、部下の変化に気づけるスキルを育てることも重要です。職場全体でメンタルヘルスに対する理解を深め、「相談しやすい」「支え合える」風土づくりを進めることが、長期的な健康経営の基盤となります。

企業がプレゼンティーイズムを改善し、従業員の健康と生産性を両立させるためには、身体的・精神的な両面からのアプローチが求められます。特に、ストレスや集中力の低下といったメンタル面の課題に対しては、マインドフルネスリラクゼーションを取り入れた支援策が効果的です。

企業にとってプレゼンティーイズム対策が重要な理由

【生産性の向上とコスト削減】
不調による集中力低下や判断ミスが減り、業務効率が改善
医療費・休職・離職にかかるコストの抑制が可能
健康への投資は、長期的な利益を生む経営判断

【組織の活性化と人材定着】
健康的な職場はモチベーションとエンゲージメントを向上
チームの連携やコミュニケーションが活発に
離職率の低下・優秀な人材の定着にもつながる

【企業価値の向上と社会的信頼】
健康経営の実践はブランド価値や採用力の強化に直結
「健康経営銘柄」「ホワイト500」などの認定取得にも有利
SDGs・ESG経営との親和性が高く、持続可能な経営を支える

まとめ:プレゼンティーイズム対策の重要性

プレゼンティーイズムの対策は、従業員の健康維持企業の生産性向上の両面において極めて重要です。アブセンティーイズム(欠勤)と合わせて包括的に取り組むことで、職場全体の健全性が高まり、業務効率やチームの連携も改善されます。
さらに、健康保険組合など保険者との連携を強化することで、より実効性のある施策が可能となり、企業全体の健康支援体制が整います。こうした継続的な健康管理の取り組みは、従業員の定着や企業の競争力強化にもつながり、持続可能な経営の基盤となります。